表紙 「わたしたちが創るコミュニティケア スペースモデルの実現をめざして」 地域における施設の機能・役割に関する特別委員会 報告 Can Challenges Choices Community Care Diversities Identities Inclusion Infinity of Possibilities Realization Recognize Respect Rights Support 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国身体障害者施設協議会 裏表紙 できる チャレンジ 選択 コミュニティケア 多様性 アイデンティティ インクルージョン 無限の可能性 実現 認める 尊重 権利 支える 表紙の内側 全国身体障害者施設協議会 倫理綱領 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国身体障害者施設協議会 全国身体障害者施設協議会に加盟する施設は、『障害者の権利に関する条約』の理念を遵守し、「最も援助を必要とする最後の一人の尊重」「可能性の限りない追求」「共に生きる社会づくり」という本会の基本理念を実現するため、ここに倫理綱領を定めます。 1.私たちは、基本的人権を尊重し、利用者一人ひとりのその人らしい生活を支援します。 2.私たちは、日々の実践を検証し、利用者に安全、安心、快適なサービスを提供します。 3.私たちは、自己研鑽に努め、専門的な知識と技術と価値観をもって、良質なサービスを提供します。 4.私たちは、利用者に必要な情報をわかりやすい方法で提供し、要望にはすみやかに対応します。 5.私たちは、広く重度の障害のある方々のためのサービスを開発し、提供します。 6.私たちは、重度の障害のある方々をとりまく環境の改善と福祉文化の醸成に努めます。 7.私たちは、関連機関・団体、地域住民等とともに、事業を展開します。 8.私たちは、透明性を堅持し、健全かつ活力ある経営にあたります。 平成15年3月13日制定 平成26年3月14日改定 前文に障害者権利条約の理念の遵守を追加 p.1 施設ケアの「転換」5つのキーワード 詳しくはp.20〜『3.期待−2施設ケアの「転換」コミュニティを担うために』 コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)を担う施設へと“ステップアップ”するために、必ず押さえておきたいキーワード Keyword @人権 「尊厳」を守り「権利」を保障する暮らしの場へ Aチャレンジ 「安全・安心の保障」から「チャレンジできる場所」へ B自己実現 「選択、自己決定、意思決定支援」が可能な環境整備を(安全確保は地域全体で) C個別支援と人材育成 支援の質を高める「24時間体制の介護、医療的ケアの提供機能」+ソーシャルワーク Dコミュニティケア 「在宅ケア」の積極的展開、そしてコミュニティケアへ p.02 コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア) のイメージ図 スペースモデル - all for one - ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- このページにはイメージ図を掲載。恒星に見立てた「人」を中心に、様々な資源(図には☆印で表現)が取り巻きコミュニティを形成しているさまを、太陽系に模している。P.03「はじめに」に解説あり。 ---追加ここまで--- 自己実現支援・環境づくり 活動支援・地域生活(移行)支援 住まいの場・介護・医療的ケア ニーズ・相談支援 人 日常生活 地域生活 社会生活 ---ここから、テキスト版とワード版に追加---  同様に、ページの右上には小さく「人」が中心の別のコミュニティがある。中央の図と合わせて、より大きなコミュニティ(銀河系)を形成していく広がりを表している。 ---追加ここまで--- 人 ○コミュニティ(地域)における拠点としての施設 ○ひとりのニーズに機能する施設 ○聴き取り、支え、共にチャレンジして自己実現をめざす ☆印は、すべての地域資源(社会資源)を示し、地域にある福祉サービス事業所・公共機関・商店・学校・住民・ボランティアなどを表す。“all”(すべての地域資源) は“one”(ひとりのニーズ) につながっている。 詳しくはp.12〜『3.期待−1施設ケアの「展開」 コミュニティケアを担う施設へ』 p.03 1 はじめに 施設の今後のあり方を考えるにあたって かつて「重度の障害のあるわが子を残して、先に死ぬことはできない」という言葉が、多くの人々を動かした。身体障害者療護施設は、その結果生まれた「生活の場」だった。 しかし、療護施設のみならず、施設はその与えられた役割を果たしながらも、一部「施設」における虐待を始め、入居者の人権を奪う出来事に直面した。 そして制度発足当時幼かった入居者は成長し、多感な青春期を様々な制約の中で生活してきた現実とも、わたしたち(入居者・スタッフ・施設運営者)は向き合いながら歩んできた。 日本において目まぐるしく変わる制度の中でも、わたしたちは身障協(全国身体障害者施設協議会)として、各法人・施設として、その理念を確認し、障害のある人々の自己実現の支援という使命を見失うことなく取り組んできた。 国際障害者年以降、いくつもの節目を経て、障害者権利条約が国連で採択され、日本においても批准され、新たな歴史が始まろうとしている。 そして今、わたしたちは、1972年の制度化から40年を経て、大きな時代の変化を踏まえ、人々の意識の変化を感じ取りながら、その総括と共に新たな施設のあり方を考える必要性を強く感じている。 本報告書の中で示されたスペースモデルは、恒星(太陽のように自ら光を放つ星)である人(利用者・障害のある当事者)を中心に、フォーマル・インフォーマルを問わず、また福祉・ケアに関わらず、コミュニティに存在する様々な資源(人・物・サービス全て=地球のような惑星、月のような衛星そして彗星・チリ・宇宙ゴミと言われる物質等)が周囲を取り巻いていることを示す。 それは、多くの人(恒星)が混ざり合い、コミュニティ(太陽系)が混ざり合い、更にはより大きなコミュニティ(銀河系)を形成していることを示す。 そして、スペースモデルの最大の示唆は、その彗星や宇宙のガスなども含めて、様々にぶつかり合い、混ざり合いながら新しい恒星(自己実現する人)や惑星等(資源等)が新たに創造されていることである。 すなわちコミュニティに存在する全ての人・物・資源等がぶつかり合いながら、新たな人や資源を生み出していくことを示している。 わたしたち施設もまた、常に混ざり合い、発展し、変化し、新たな資源を生み出し、そこに生きる利用者・スタッフのみならず、コミュニティの中で施設自身も自己実現という形で成長していくことが必要ではないだろうか。 本報告書は、コミュニティケアについて、その理念を改めて確認し、その具体的実践の時を迎えた中で、施設ができること、考えることを提起するものである。 p.04 ひるがえって省みれば、この間「親亡き後」の生活の場の選択肢は広がり、そのあり方(制度理念)も変わった。 施設ケアは24時間の体制と多職種による緊密な連携、その中で育まれた人材、生活全般の課題を網羅するという包括ケアを展開し、昨今は個別ケアへの取り組みも重点化している。 一方、在宅ケアは不安定な制度基盤と社会資源の不足、少ない予算、人材養成の未確立などの課題の中で推移しながらも、高齢・児童の要請も加わり、着実にこの10年で大きく様変わりしてきた。それは障害のある人々のニーズの反映と言える。 在宅ケアの特徴である個別ケアは、障害の重度化重症化(医療的ケアの必要性)に伴い、多様なケアへの対応、コミュニティ内における多様な資源・職種間の連携を必然的に構築してきた。 そこから人材を生み出すエネルギーが蓄積され、更に在宅における24時間のケアも可能とする制度的裏付けを生み出した。 すなわち施設ケアと在宅ケアの特性が急速に接近していると言えないか。 言い換えれば、在宅ケアが施設ケアに近づき、施設ケアも在宅ケアから多くのことを学び取り入れ、それぞれが同様の機能を持ち、高めあいながら、その限界点が近づいているとも言える。 それは施設ケアも在宅ケアも、そのケアの形態に差異がなくなりつつあることを意味している。 よって、スペースモデルの高みから俯瞰すれば、施設ケアか在宅ケアかの議論は意味を持たず(相対的なものとなり)、双方のケアの形態が、それぞれのコミュニティに合わせて連携し、役割を認め合い、より豊かなコミュニティケアの創出を目指すという方向性を共有し始めていると言える。 障害者権利条約は「他の者と平等に地域で生活する権利」を掲げている。わが国も批准国となった今、コミュニティケアの創出に向けて、それぞれが具体的にその歩みを踏む出す時期に来たのではないだろうか。 わたしたちは、障害のある人々の人権と選択を尊重し、その人の自己実現支援とコミュニティケアの創出と発展のために、今後私たちが取り組むべき方向について、既に多くの法人・施設で実践されている例を挙げてみた。 それぞれのコミュニティの特性を鑑みて、各法人・施設において検討実践していただき、更に事例を積み上げながら、新たな宇宙を形成できればと考える。 p.05 コミュニティケアと施設の取り組みとの関係について、実際にはそれぞれのコミュニティ・法人・施設において、複雑に絡み合うものだが、具体的な展開を下記のように4つの形態にイメージしてみた。 1 施設ケアの充実 包括的ケアの更なる進化 個別支援・個別ケアの追究 選択の保障 情報公開と透明性 専門性の向上 など 2 在宅ケアとの連携 日中活動、ショートスティなどを通して 送迎等含む移動支援のあり方 計画相談を契機とした相談支援のあり方 地域の協議会との関係 分野を超えた地域特性との連携 など 3 在宅ケアへの展開 日中活動の拡充(旧ディサービスからの発展・脱却) 障害ヘルパーの派遣 住まいの場の展開 人材養成 分野を超えた地域特性の実践 など 4 コミュニティにおける施設の役割 地域融合・地域開放・地域資源化(地域活動の拠点等) コミュニティのセーフティネットとして(災害等も含む) 権利擁護の拠点として など 全国身体障害者施設協議会 地域における施設の機能・役割に関する特別委員会 「わたしたちが創るコミュニティケア スペースモデルの実現をめざして」 地域における施設の機能・役割に関する特別委員会 報告 目次 全国身体障害者施設協議会 倫理綱領 施設ケアの「転換」5つのキーワード――― p.01 「コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)」のイメージ図 スペースモデル―― p.02 1はじめに 施設の今後のあり方を考えるにあたって―――p.03 2成果と課題 1 施設ケアがめざしてきたこと 安全・安心の保障―――p.08 ○歴史的経緯、時代的変化(変遷)―――p.08 ○旧法身体障害者療護施設の7つのサービス機能―――p.08 ○身障協が取り組んできたこと―――p.09 2 入退所の要因と経緯―――p.10 ○施設の社会化とは―――p.11 3期待 1 施設ケアの「展開」 コミュニティケアを担う施設へ―――p.12 @施設ケアを“改革”する―――p.12 A障害者支援施設に求められているケアモデルの展開 「コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)」―――p.14 i)スペースモデルについて―――p.14 【めざす支援の基礎(方法)としての3つのポイント】 ア)「本人から聴き取り、計画する」―――p.14 イ)「連携して支える」―――p.14 ウ)「共にチャレンジする」―――p.14 ii)暮らしに必要なサービスと求められる質―――p.16 ア)住まいの場(施設・ケアホーム・グループホーム・福祉ホーム・アパート等)―――p.16 イ)介護・医療的ケア(ケア)―――p.17 ウ)コミュニケーション支援―――p.17 エ)その他―――p.18 iii)コミュニティケアを築いてゆく社会環境づくり―――p.18 2 施設ケアの「転換」コミュニティケアを担うために―――p.20 5つのキーワード @人権 「尊厳」を守り「権利」を保障する暮らしの場へ Aチャレンジ 「安全・安心の保障」から、「チャレンジできる場所」へ B自己実現 「選択、自己決定、意思決定支援」が可能な環境整備を(安全確保は地域全体で) C個別支援と人材育成 支援の質を高める「24時間体制の介護、医療的ケアの提供機能」+ソーシャルワーク Dコミュニティケア 「在宅ケア」の積極的展開、そしてコミュニティケアへ 【実現のために】―――p.21 @人権 「尊厳」を守り「権利」を保障する暮らしの場へ―――p.21 Aチャレンジ 「安全・安心の保障」から「チャレンジできる場所」へ―――p.22 B自己実現 「選択、自己決定、意思決定支援」が可能な環境整備を(安全確保は地域全体で)――p.24 C個別支援と人材育成 支援の質を高める「24時間体制の介護、医療的ケアの提供機能」+ソーシャルワーク――p.26 Dコミュニティケア 「在宅ケア」の積極的展開、そしてコミュニティケアへ―――p.28 4社会福祉法人として 日常生活/緊急時の拠点として―――p.30 人材(財)育成の拠点として(職業的従事者/地域支援者)―――p.32 使命として(地域貢献、国際貢献)―――p.33 参考資料―――p.34 5おわりに―――p.35 委員会の開催経過、委員名簿―――p.36 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- 奥付 ---追加ここまで--- p.08 2成果と課題 1 施設ケアがめざしてきたこと 安全・安心の保障 ○歴史的経緯、時代的変化(変遷) 身体障害者療護施設は、1972(昭和47)年7月に設置運営規定が設けられたことにより制度化された。最重度の身体障害者が、安心して治療と養護のサービスを受けるべく取り組んできた関係者の思いが結実し、制度が実態に追いついた結果である。ただしこの時代は、福祉も「保護」の様相が色濃く、最重度の障害者の生存権を守ることに注力していた。 その後制度化により身体障害者療護施設の整備が進み、全国身体障害者療護施設協議会[全療協](現:全国身体障害者施設協議会[身障協])が組織化されたのは、1976(昭和51)年6月である。 そのなかで、制度化以降めざしてきたものは、2003(平成15)年3月に制定した「倫理綱領」に謳う3つの理念に象徴される。 「最も援助を必要とする最後の一人の尊重」 「可能性の限りない追求」 「共に生きる社会づくり」 身障協は、利用者の生命の維持と安全・安心を保障するサービスの提供を、常に第一義に据えたケアを実践してきた施設の全国組織として、利用者の可能性の追求と共生社会づくりの実現をめざし、7つの機能を整理した。 ○旧法身体障害者療護施設の7つのサービス機能 「障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」(平成15・16年度厚生労働科学研究[分担研究]報告書、平成17年3月) 身体障害者療護施設のサービス機能(p.13,図1) @自立支援機能 A専門的生活介護機能 B治療・健康管理機能 C社会リハビリテーション機能 D地域生活支援機能 E住居提供機能 F相談支援・ケアマネジメント機能(家族との連絡調整等) p.09 ○身障協が取り組んできたこと 身障協は、3つの理念を掲げ、7つの機能を整理して、「地域生活」をキーワードに、先駆的に意識づけや事業に取り組んできたが、利用者の可能性の追求と共生社会づくりの実現をめざす過程では課題を抱えた。それを内的要因と外的要因で整理して以下に挙げる。 ●実現をめざす過程で抱えた課題の要因 【内的要因:サービス提供者としての施設側の意識】 ・すべての面で安全・安心を保障するべきであるという意識 ・生活のすべてに対する支援を、施設内で完結させる意識 ・「地域生活」の考え方が、「施設不要/解体」に結びつく意識 ・推進する担い手の養成が進まない 【外的要因】 @地域、社会の意識・課題 ・施設は、すべての面で安全・安心を保障しなければならないという意識 ・地域に、施設以外の支援体制が少ない現実 A制度設計 B必要なサービスの開発が不十分な行政の現実 ●在宅サービス委員会から、地域生活支援推進委員会へ 10年前、倫理綱領制定の翌年度(平成15年度)から、身障協は在宅生活を支えるサービスを一層重要視し、常設委員会に「在宅サービス委員会」を設けた。 それまでも身障協では、在宅障害者への支援に重きを置き、平成9年から調査研究委員会内に「在宅福祉サービス部会」(平成14年度は「在宅サービス小委員会」)を設けていた。平成15年度から支援費制度が導入された状況のなかで、在宅サービスに一層力を入れたいという組織的な意思表示として、常設委員会に格上げしたものである。在宅サービス委員会は、平成18年度から「地域生活支援推進委員会」として、組織がめざすことの具現化を担っている。 この10年は、今まで以上に障害者の「地域生活」を推進する時代である。 ●在宅サービス推進の実態 身障協は在宅サービスの重要性を提案し、展望を示して推進に取り組んできた。部会・委員会の設置のほか、重度障害者在宅サービス推進研究会議の実施、障害者・児の地域移行に焦点を当てた施設の機能や移行プログラムの研究・検討(p.10)等を行ってきた。しかし、既述した内的・外的要因や、頻繁な制度改革への対応にも影響されてか、実施状況は、期待したほどの伸びを示していない。 p.10 主な研究等 ・「障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」(平成17年3月)(平成15・16年度厚生労働科学研究[分担研究]/全国身体障害者施設協議会 障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究委員会) ・「重度障害者の地域生活移行プログラムに関する検討」最終報告書(平成17年3月)(全国身体障害者施設協議会 重度障害者の地域移行プログラム検討委員会) ・「障害者の地域生活移行に向けて〜重度障害者の地域生活移行プログラムを活用しよう!〜利用者の希望の実現と施設支援の充実」(平成20年3月/パンフレット)(全国身体障害者施設協議会 地域生活支援推進委員会) 2 入退所の要因と経緯 利用者が施設に入所するに至る理由には、家族の意向、家族への配慮(遠慮、葛藤)、地域での支援の不足(意思疎通支援の不足、支援基盤の不足、情報の不足等)であることが多く、本人の意思による利用ばかりではない。 保護の概念が色濃かった時代は、施設側も、安全・安心に生涯を施設内で生活することの保障が最大の福祉の実践であった。緊急避難的なサービス利用も含め、多くの家族が、設備があり、費用負担も低く、障害特性を踏まえた専門的ケアができる障害者支援施設等の存在に、信頼をおいている実態もある。 しかし施設で暮らすか否かは、あくまで自己決定を尊重した選択に委ねるべきであり、共生社会を実現するためのあらゆる手段を、地域全体で講じなければならない。 従前は、退去に期限をつけることなく施設入所に至ることが実態だったが、現在は制度上もサービス提供までのプロセスが改善され、支給決定期間の設定、相談支援の機会確保、サービス利用計画の策定・モニタリング、個別支援計画の策定と見直しなど、利用者本人にも施設・事業所にも自治体にも、検証の機会は確保されている。利用時、または意思が変わった場合には、速やかに適切に対応しなければならない。 ただし、身障協が早くから施設の地域化・社会化とともに在宅支援を重要視してきたように、希望する場所で希望する生活スタイルを選択できるよう、地域全体で、住環境の整備を含めた支援基盤を整備する必要がある。 なお、入退所の要因に関しては、家族支援に依存せず、本人のニーズに応じたさまざまなサービスの利用を検討できるよう、所得保障の点も含め、社会保障のあり方が検討されるべきである。 p.11 ○施設の社会化とは 施設の社会化は施設内のケアの質の向上にとって必要な取り組みであるが、それに加えて、近年の障害福祉制度改革の方向性として重視されている入所施設から地域生活への移行の推進に関しても重要な取り組みである。換言すれば、これらのことを円滑に進めるための前提として、施設の社会化の取り組みを十分進めておく必要がある。ただし、施設の社会化に関しては多様な取り組みがあり、その定義も多様なので、ここでは、利用者(家族を含む)、(入所)施設、地域住民の3つの観点からその意味を具体的に考えてみることにする。 利用者の観点では、さまざまな地域の社会資源やサービス、地域住民のボランティアなどを積極的に受け入れることによって、利用者の施設内生活に刺激と意欲をもたらし、その結果、利用者のQOL(生活の質)の維持・向上に寄与することになる。この刺激と意欲の強化が利用者の地域生活移行につながることも多いので、地域生活移行の最初のスタートの取り組みとして重視することもある。 施設の観点では、地域の社会資源や住民ボランティアを受け入れることが地域住民に対する施設のPR、啓発活動として位置づけて積極的に活用することを重視する。この他、施設が積極的に地域支援に関わる資源(グループホーム、ケアホーム1、日中活動の場、相談支援事業所など)を作り出して、その運営をバックアップしていくことも重要な取り組みである。利用者の地域生活移行の観点では、施設生活と地域生活との間に位置するような中間型の小規模居住型施設(ケアホーム、グループホーム、サテライト型のグループホームなど)といった移行型の施設を作り出していくことも重要な取り組みである。 地域住民の観点では、地域住民の活動の場(施設内ボランティアだけでなく、地域住民の自主的な活動の場)の提供として、施設の一部を地域住民に開放する取り組みが重要なものとしてあげられる。この取り組みは施設のオープン化ともいわれる。地域の夏祭り、バザーなど、地域住民の活動に積極的に関与しながら、施設への理解を深めることは、施設コンフリクト(施設と地域住民との摩擦)を回避する上でも重要である。この他、地域住民の中で、施設サービスを利用する可能性のある人々を把握し、相談支援に結びつける活動(アウトリーチ活動)も重要な取り組みである。 ただし、これら3つの観点で整理した取り組みはそれぞれ独立したものではなく、すべて、相互につながっており、施設の社会化は、これらの相互作用を含んだ総体としての取り組みとして捉えることもできる。 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- 文中「ケアホーム」に脚注1あり。 ---追加ここまで--- 1 平成26年4月より、ケアホーム(共同生活介護)はグループホーム(共同生活援助)に一元化 p.12 3期待 1 施設ケアの「展開」 コミュニティケアを担う施設へ @施設ケアを“改革”する 旧法身体障害者療護施設の7つのサービス機能を提案した時期から現在までの間には、制度の改革が進み、『障害者の権利に関する条約2』の批准や障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定など、共生社会の実現や権利の尊重をより求める時代となった。 わたしたちが先駆性をもって整理した7つの機能は、サービス提供者(=施設)の視点から、客観的にみた施設の機能を整理したものであった。 そこで、施設の今後のあり方を考えるにあたり、時代の変遷と社会の要請に鑑み、サービスを利用する方(=人)の視点で整理し直した。 わたしたちがめざすのは、人格と個性が尊重され、日常生活と社会生活を営むうえでの意思が尊重される共生社会である。 めざす社会に向けて、いま障害者支援施設にある機能やノウハウを高めることによって実現できるケアモデル:「コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)」を提案する。 ただし、改革するうえで「全国身体障害者施設協議会 倫理綱領」や、旧法身体障害者療護施設の時代から日常生活のサポートの根幹としてきた「住居」「介護、医療的ケア」の提供は、受け継ぐべきものであることに変わりはない。 なお、身体機能や心身の健康に何らかの課題がある人々は、さまざまな社会資源にアクセスする条件が、一般的な住民と全く同一とは言えない。それを同等に近づけることが、コミュニティケアの確実な実現につながる。 “改革”への具体的な取り組みにつながる入口は、障害者権利条約の第3条一般原則にいう内容が、共通概念としてわかりやすい。 (a)「固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び個人の自立の尊重」 (b)「無差別」 (c)「社会への完全かつ効果的な参加及び包容」 (d)「差異の尊重並びに人間の多様性の一部及び人類の一員としての障害者の受入れ」 (e)「機会の均等」 (f)「施設及びサービス等の利用の容易さ」 (g)「男女の平等」 (h)「障害のある児童の発達しつつある能力の尊重及び障害のある児童がその同一性を保持する権利の尊重」 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- 文中「障害者の権利に関する条約」に脚注2あり。 ---追加ここまで--- 2 平成26(2014)年1月20日、日本は批准書を国連事務総長に寄託。141番目の批准国として同日登録された。国内発効は平成26(2014)年2月19日。 p.13 ●サービス提供者の視点で整理 (図1)身体障害者療護施設のサービス機能構成図 ※いわゆる「7つの機能」 「障害児(者)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」平成16年度報告書(平成17年3月) p.18-21抜粋 1.自立支援機能 理念 最も援助を必要とする最後の一人の尊重、可能性の限りない追求、共に生きる社会づくり 2.専門的生活介護機能 3.治療・健康管理機能 4.社会リハビリテーション機能 5.地域生活支援機能 6.住居提供機能 7.相談支援・ケアマネジメント機能 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに、下向きの矢印あり。 ---追加ここまで--- ●サービス利用者の視点で、“本人中心”に再整理 (図2)「コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)」のイメージ図:スペースモデル コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア) のイメージ図 スペースモデル - all for one - ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- このページには、p.02と同じイメージ図を掲載。恒星に見立てた「人」を中心に、様々な資源(図には☆印で表現)が取り巻きコミュニティを形成しているさまを、太陽系に模している。 ---追加ここまで--- 自己実現支援・環境づくり 活動支援・地域生活(移行)支援 住まいの場・介護・医療的ケア ニーズ・相談支援 人 日常生活 地域生活 社会生活 人 ○コミュニティ(地域)における拠点としての施設 ○ひとりのニーズに機能する施設 ○聴き取り、支え、共にチャレンジして自己実現をめざす ☆印は、すべての地域資源(社会資源)を示し、地域にある福祉サービス事業所・公共機関・商店・学校・住民・ボランティアなどを表す。“all”(すべての地域資源) は“one”(ひとりのニーズ) につながっている。 p.14 A障害者支援施設に求められているケアモデルの展開 「コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)」 i)スペースモデルについて 「コミュニティケア」のイメージ図:スペースモデルは、利用者の自己実現(自分らしく生きる)と、支援者の自己実現(人を支える喜びと成長)をめざし、「すべての地域資源はひとりのニーズのために ― all for one ―」を目標としている。図では、ニーズある人を恒星、そこへつながる地域資源(障害者支援施設を含む)を惑星と見立てた(p.13,図2)。ケアが双方向の関係性(充足と進化など)を生むこと。ニーズとの交互作用によって資源は変化し、代用も創意工夫により可能であること。資源間の連携によるネットワークが重要であること、などをイメージしている。 そして「ひとりの人」は、今、施設に居住している人々、在宅で暮らす人々のすべてを含み、その一人ひとりのニーズ(希望・必要性)に、わたしたち施設の持つ機能、すなわち「サービスと人材」が機能していく方向性の表現を試みた。 その際施設は、多くの人々に対応可能な住まいの場と、アクティヴィティ、リハビリテーション、介助浴等の空間と専門設備を備え、多数の専門職・サービス提供者を有す規模の地域資源であるので、「コミュニティ(地域)」における拠点」として機能することが期待される。 そのためには、地域に貢献し、地域における拠点となる事業所(法人)の意志と方針が重要となる。そして、一人ひとりの尊厳を守り、ニーズに沿う支援のためのスキル(技術)と方法を高めていかなければならない。ここでは、その実践に向けての3つのポイントをあげてみたい。 ア)「本人から聴き取り、計画する」 本人を中心としてニーズを聴き取り(アセスメント)、ニーズに沿うための相談支援と個別支援計画(ケアプラン)づくりを行うこと。自己決定に向けてのメンタルサポートをはじめとするエンパワメント支援、丁寧な意思決定支援を、必要に応じて行っていくプロセスを重視する。 イ)「連携して支える」 これまで培ってきた、常時介護と医療的ケアを必要とする人々の生命を守るケアおよび多様な障害の状態にある人々への支援技術の向上に努め、個別支援計画をベースに、変化に対応する質の高いチームケアを、安定的に提供し続ける体制をつくること。 ウ)「共にチャレンジする」 本人の希望や願い(障害を理由にあきらめたことや、夢だったことを含む)の実現に向けて、チャレンジすることを支援していくこと。 例えば、「旅行に行きたい」「仕事につながる資格を取りたい」「アパートで一人暮らしをしたい」などの個別の目標に向かって、本人と支援者がパートナーとなり、ともに「情報収集、利用可能な資源・財源確保、行動計画づくり、試行、調整」などを、他の地域資源と連携して行っていく。その過程がチャレンジで、エンパワメントアプローチ(表1)の実践である。 p.15 平成25年4月から、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」がスタートした。障害のある人々一人ひとりを総合的に支援する時に、その日常生活、地域生活、社会生活を描く主体は本人である。 しかしながら、コミュニティ(地域)にある障害福祉サービス事業所等、資源の乏しさ、基盤整備の未充足もまた現実。自分らしい生活をイメージする情報も得られないでいる状況の障害のある人々は多い。 資源の地域間格差、都市部、農村部、離島などの地域性を考慮し、市町村と自立支援協議会等を核とする地域の連携で、対応を図っていく体制づくりを推進して行かなければならない。 そして、わたしたち自らが地域の障害者生活支援の拠点となり、地域資源として一人ひとりのニーズに機能していくことが求められている。サービスを提供することと同時に、多くの人と技術、情報を有する施設は、資源の創出、人材養成など、コミュニティケアの要となる可能性と使命を担っていると考える。 (表1)エンパワメントアプローチ(近年の研究によるプロセスの整理) パートナーシップを形成する クライエントの権利を承認し、独自性を尊重するクライエント‐ワーカー関係をつくる 挑戦する状況を組織化する クライエントの経験を確認し、交互作用が起きる範囲を考慮し、目標を見据えることへの応答により、挑戦する状況をアセスメントする 方向性を明確化する 動機を確認し、関連する諸資源への探索を導く関係づくりのための予備目的を決定する ストレングスを特定する 挑戦する状況、文化的独自性に対処し、逆境を乗り越えていくストレングスを探す 諸資源をアセスメントする 家族関係、小集団、組織、地域にある施設・機関といった社会環境との交互作用の中にある資源能力を探索する 解決への枠組みをつくる クライエントと環境のなかの諸資源を利用し、望んでいる目標へと導く行動計画を組み立てる 諸資源を活性化し動員する 活用可能な諸資源を動員し、行動計画を推進する 連携を創り出す クライエント、クライエントの自然発生的なサポートネットワーク、サービス供給システム間の連携を創り出す 機会を拡大する プログラム開発、コミュニティの組織化、ソーシャルアクションによって新しい機会と資源を開発する 成功を認識する 達成を認識し、継続させる行動を形づくる変化への努力による成功を評価する 成果を統合する 成功を賞賛し、積極的変化を安定させ、これからの変化の基盤を用意することで、変化の過程を終結する 出典:デュボイス(B.DuBois)とミレイ(K.K.Miley)によるエンパワメントアプローチの具体的内容(2008年) p.16 ii)暮らしに必要なサービスと求められる質 ア)住まいの場(施設・ケアホーム・グループホーム・福祉ホーム・アパート等) ○プライバシーの確保ができること。(個室等) ○バリアフリー、車いすで動ける・使えるスペース。(居室、洗面所、トイレ、浴室等) ○採光、採暖、換気、衛生状態と清掃の管理。 <生活を楽しむ@:趣味に生きる>オーディオ、ビジュアル機器や家電、趣味のポスター。自分なりに個室をアレンジ 一口馬主の日曜午後は中継が楽しみ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 年に1度「鉄人」に会いに新長田駅前へ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- <生活を楽しむA:みんなで、自分で> 皆で食事。いろいろな話をします ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 洗濯物は自分で ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 丹精込めた花で皆が和みます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- アイドル犬の散歩は代わるがわる ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- <生活を楽しむB:居心地よい部屋> ディズニーキャラクターが大好き! ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 寝具はふとん 好きな生活スタイルを選択 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 自分で住みたい部屋を決めました ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.17 <生活を楽しむC:地域との交流> 住民結成のビッグバンド。演奏を楽しむ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 地域の運動会に参加 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- <ケアホーム内のバリアフリー> 共有の座敷トイレ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- ユニット内の共有トイレ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- イ)介護・医療的ケア(ケア) ○利用者(当事者)の思いを理解し、その思いを受けとめるスキルを持つ。 ○ケアの本質は、利用者、支援者がともに自己実現していくこと。 ○根拠と裏付けがあり、理にかなうケアを、多職種が対等な関係と同じレベルで連携して行うチームケアが重要(例:個別支援計画、リハビリテーション計画、栄養マネジメント計画、看護計画の統合と実施) ○個別支援計画はサービスの根拠であり、職種間及び資源間連携のためのツールとなる。 ○ケアは、人間的な行為(感情労働)であるため、科学的知識と技術は不可欠であり、それを使いこなすことが専門性である。 ウ)コミュニケーション支援 ○視覚・聴覚・言語障害および知的・発達障害の人々へ多様な手段で情報を伝え、また意思を聴き取る支援を徹底する。 ○肢体不自由と言語の重複障害、重症心身障害など言語の表出が困難な人々へは、コミュニケーションボードを使う、質問を工夫する、目線の先を追うなどして、丁寧に意思を汲み取る。 ○読み書きや代弁などの支援を行う。 p.18 エ)その他 日中活動支援、地域移行・定着支援、居宅介護(ホームヘルプ)、短期入所、移動支援、就労支援、相談支援事業所等、障害者総合支援法の下で、活用できる制度化されたサービス資源は増えてきている。 プログラムの工夫、人材の確保と配置、運営方法等、全国身体障害者施設協議会でも実態調査、研修会等にて毎年情報を受発信しているところであり、ご参照いただきたい。 しかしながら、コミュニティ(地域)は独自のもので、一人ひとりのニーズがすべて制度で充足されることはないので、ニーズをターゲットとするコミュニティケアには、インフォーマルサービスと創意工夫が不可欠といえる。 iii)コミュニティケアを築いてゆく社会環境づくり 社会生活を支えるためには、地域で本人が生活するために必要な、さまざまな環境づくりが重要となる。例えば、@本人が地域に慣れること、地域が障害者への理解をもつこと、A本人の障害特性に合ったコミュニケーションが円滑に行われるような仕組みづくり、B本人の気持ちを高めるエンパワメント支援の環境、などが挙げられる。  チャレンジ、試行錯誤を受け容れる意識、生活上のリスクを軽減するための仕組みが、障害者支援施設にも地域にも、必要であることは言うまでもない。 実践例1 熊本県山鹿市 消防との連携 いのちを守るネットワークづくりに向けた人工呼吸器利用者避難訓練 熊本県山鹿植木消防本部は人工呼吸器利用者と家族、障害者支援施設が運営する訪問介護事業所の要請により、平成25年度から救急搬送時の事前調査を始めた。調査結果により、災害時要援護者個別支援計画を策定し、119番通報を受ける通信指令システムにも登録して活用する方針である。 消防本部は、サービスを利用しながら在宅生活を送るAさん宅を訪問し、消防隊員と救急隊員とが連携して、病院までの搬送経路や方法、留意事項を確認するシミュレーションを行った。 Aさんは30代女性で、筋ジストロフィーの疾患があり、常時人工呼吸器を装着して両親と生活している。たんの吸引は5分毎に必要。自宅の2階が居住スペースで、急な階段が避難路となることに、ヘルパーと家族は常に不安を感じていた。 支援学校に通う小学生の頃から、体力のあった8年前までは、障害者支援施設「愛隣館」の通所サービスを利用していた。現在は家の中だけの暮らしとなり、1日4〜5時間の重度訪問介護サービスと病院からの訪問看護、NPO法人の訪問入浴等の支援を利用し生活している。 p.19 消防本部が人工呼吸器の電源確保の方法、2階からの搬送経路などを訓練したところ、通常の3人1組では非常時の救急態勢に不足があること、患者に負担をかけない搬送方法などが確認できた。 救急隊員は、自宅で24時間呼吸器を装着し生活する実態に初めてふれ、周りの支援の必要性を痛感し、消防隊員も、もし近所で火災等の周辺危機が発生した際は、Aさんの救助を手配すると話した。新聞2社がこの訓練を重視し、報道した。 地域全体の高齢化が進む中、家族やサービス事業者だけでは対応しきれない非常時の避難、救急搬送には、専門機関等による事前の調査やシミュレーション、要援護者データの登録など、地域の力を結集することが有効であると認識した。 自治体には、自力での避難が困難な「災害要援護者」名簿の作成が義務づけられており、同時に施設の福祉避難所指定契約が進んでいる。 平時に、有事を想定した訓練と情報の共有、支援ノウハウの蓄積を地域ネットワークで行うことを大切と考える。 居室(2階)で避難準備 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 外階段を避難搬送中 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 呼吸器と容態の確認 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 訓練中のたんの吸引 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.20 2 施設ケアの「転換」 コミュニティケアを担うために コミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)を担う施設へと“ステップアップ”するために必ず押さえておかなければいけないキーワードがある。事例を交えて、その5つの言葉をお示しする。 5つのキーワード @人権 「尊厳」を守り「権利」を保障する暮らしの場へ Aチャレンジ 「安全・安心の保障」から「チャレンジできる場所」へ B自己実現 「選択、自己決定、意思決定支援」が可能な環境整備を(安全確保は地域全体で) C個別支援と人材育成 支援の質を高める「24時間体制の介護、医療的ケアの提供機能」+ソーシャルワーク Dコミュニティケア 「在宅ケア」の積極的展開、そしてコミュニティケアへ p.21 実現のために @人権 「尊厳」を守り「権利」を保障する暮らしの場へ 障害者支援施設では、集団で生活する場の管理と責任、安全な生活の保障という観点から、個別支援は行ってきたものの、利用者個々人の自己決定や意思にそった生活の保障という点においては、権利を尊重しきれていない側面もある。 一方で、施設で生活する利用者は必要な時に支援を求めるスタイルで生活していることもあり、何ごとも自分の意思で決定し行動を起こす必要がある生活や、自身が望むことが叶う生活が、権利の実現に直結することを実感する場面が少ないともいえるのではないか。 すべての施設が、意思決定を支援してくれること、苦情や相談を受けとめて解決や解消、実現に導いてくれること、やりたいことが体験できること等を利用者が実感できる暮らしの場となることを望む。 実践例2 ケアホーム建設中の他法人から、入居予定者と、当法人ケアホーム入居者の意見交換会の申し出があり会合を持った。質問は「門限はあるか」「外出は自由にできるか」「部屋の広さは十分か」など、自己選択・決定できる環境であるかを問う質問が多かった。入居者の皆さんは、「自由である」「収入を考えて部屋を選んだ」などと答えていた。 「外出は自由です」「部屋は自分で決めました」 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 車いすのカウンセラーが、経験を伝えながら「決める」「解決する」をサポートします ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.22 実現のために Aチャレンジ 「安全・安心の保障」から、「チャレンジできる場所」へ 障害者支援施設は、安全・安心を保障したいという思いから、ケアの個別性(個別支援)の追求と同時に、集団での管理や統制によるリスクの回避を常に考えてきた。施設では「チャレンジ」を、事故などのハイリスクの可能性が高いことと受けとめる。しかしそれは、QOLを考えながらもむしろ、真摯にリスクマネジメントに臨む姿勢の表れでもある。 障害者支援施設であるからこそ専門的で緻密な個別性のある介護がなされている反面、「絶対にリスクは回避しなければならない」との思いから、より安全な選択肢の提供や、個より集団を捉える傾向がどうしても否めなかった。 これを、「利用者本人中心」に発想する視点に転換し、施設と地域コミュニティが連携協力して、利用者の安全性を確保しながらもチャレンジする仕組みをつくりあげてほしい。 わたしたち誰しもが向き合うさまざまなリスクには、障害者も遭遇して当然であると意識したい。ただし、事故が起こった場合の対応(連絡体制・緊急体制)は、しっかりと整える必要がある。アクシデントが起こった後の的確なフォローとして、個別ケア(エンパワメントや日々かかわり)を行えることが、障害者支援施設の専門性であり、求められているのは、リスク要因を安易に回避することや、安全な選択肢を提供することではない。 「チャレンジできる」ことは、共生社会の実現につながる。チャレンジすること、リスクを冒して自己実現しようとすることから生まれる、生活の「豊かさ」(地域住民とのつながりなど)が、利用者を、障害者支援施設と地域とで支えることになる。 「やってみたい」。体験入居後ケアホームへ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 在宅生活、チャレンジ中! ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.23 実践例3 利用者Bさんが電動車いすで散歩している時に、いつも気になっていたが入ることができなかった近所の食堂へ、職員と一緒に訪問。店主に、職員から必要最小限の情報を話し、「今度、Bさんが一人で来店することがあれば、よろしくお願いします」と伝えると、店主は快諾。 今ではBさんは店主とすっかり仲良くなり、食堂の常連客や他の客とも話をするようになり、顔なじみがどんどん広がっている。そのせいかBさんは最近かなり太ってしまった…。 店主は後日談として、Bさんが一人で来店するとは思っていなかったと話してくれた。 実践例4 きっかけのヒント @施設で行う行事には積極的に利用者OBを招待し、現利用者との交流を深めたり、定期的にOB懇談会(交流会)を開いたり、施設を出た方がたの生活の様子を聴く機会を設けた。 ・以前、同じ施設で生活し知人だった方の生活実態を聴くことで、漠然と考えていた自宅やアパートなどでの生活を、自分と重ね合わせて考え、よりリアルにシミュレーションでき、共感できることが多い。 A地域で「なじみ」の関係を積極的に作る(最初は職員がきっかけを) ・地域の方がたから、「街でよくお会いするがどう接したらよいか」「気になっているが踏み込めない」「接点がない」等の声を聴く機会がある。利用者にも話を聴くと、「時どき挨拶を交わす方や行きつけの店の方ともっと係わりたいが、相手もどうしたらいいか困っているようだ、自分も上手く思いを伝えられない」と感じていることが判った。 そこで、職員が地域の方との「仲人」に。 そのことをきっかけに、その後はお互いにコミユニケーションを深めることができ、「なじみ」の関係が徐々に広がっていった。 ・なじみの関係を作るため職員が行ったことは、利用者に同行して、地域の方がたに個別に、利用者のコミユニケーション能力や方法(文字盤/言っていることは理解でき「はい・いいえ」で答える/ゆっくり話すことができる、等々)や出身地、趣味等の簡単なプロフィール、そして、緊急時対応として施設や担当者の連絡方法など、必要最小限の情報を伝えたこと。もちろん利用者の同意の上で行った。 B家族の意識が変わる工夫 ・特に、幼少時から障害がある場合、ご家族のイメージは子どもが幼少時のままであることが多い。本人が家族関係のなかで見せているときの顔と、自立生活プログラムなどを受けている顔の違いや、自立生活をしている方がどのように生活しているかを、ビデオに撮影してご家族に視てもらうことは、「チャレンジ」を応援するためのはたらきかけの一つになる。 p.24 実現のために B自己実現 「選択、自己決定、意思決定支援」が可能な環境整備を(安全確保は地域全体で) 「安全・安心」を、100%施設内で確保すると考えるのではなく、「地域全体で確保すればよい」と、考え方を転換したい。「施設ケア」を「施設(ハコモノ)」の中だけで考えず、地域単位で展開するものという視点をもつことが重要である。 ただしそのためには、地域全体の環境整備が必要である。地域で見守るという意識が未成熟な段階では、コミュニティケアの歯車が不足してしまう。障害者支援施設は、行政にはたらきかけ、または助力を求め、地域の意識を養う中心的な役割を果たしてほしい。 実践例5 施設と地域の自立生活センターが連携 「地域で暮らしたい」夢を実現 30代、男性。マルファン症候群、高次脳機能障害、心臓機能障害、左半身麻痺、左上下肢機能の著しい障害、食事・トイレ一部介助、入浴要介助、外出要介助、コミュニケーションは選択式で行う。父、母共に亡くなり、叔父、叔母が支援を行ってこられた。障害等級:身体障害1級、障害程度区分63。 ・高校生の時に脳出血で倒れる(大動脈瘤、マルファン症候群)。大学在学中にくも膜下出血によって倒れ入院。左半身麻痺になり、自宅で家族による介護ができない状況になったため、リハビリも兼ねて施設に入所した。 自治体が行った施設入所者への地域移行アンケート調査で、移行の意思表示があったことをきっかけに、施設と自立生活センターの連携した取り組みが始まった。自立生活センターのスタッフが月1回訪問して個別ピアカウンセリングを行い、地域移行に際しての不安な点、疑問点を一つひとつクリアしていき、地域移行(自立生活)を実現。 ・地域移行プログラムの1年5か月の間に、ピアカウンセリング、自立生活プログラムを受け、地域での生活イメージをつくっていった。個別訪問ピアカウンセリングを行いながら、自立生活センターが借りている自立体験室を使って、毎月1週間程度の自立体験を行う。親族も体験宿泊の様子をご覧になり、自立生活を応援してくれた。 すでに自立生活をしている障害者宅を訪問して、自立生活のイメージが明確に。賃貸住宅を借りるために、一緒に物件探しをするなかで、本人の希望が明確になっていった。物件探しは自立生活センターの知り合いの不動産屋さんが協力してくれた。車いすでの利用ができるように、トイレ内と浴槽の入り口に手すりをつける等の住宅改修を行った。 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- 文中「障害程度区分」に脚注3あり。 ---追加ここまで--- 3 平成26年4月より、標準的な支援の必要の度合を示す「障害支援区分」が導入されます p.25 ・現在、ホームヘルプ(重度訪問介護)を利用しながら、日中は週5日作業所に通い活動している。自立生活センターのスタッフが、ヘルパーへの連絡調整や健康管理(病院への同行、服薬の促し等)等を支援している。 高次脳機能障害への対応として、ヘルパーへの指示がし易くなるように「指示版」を何枚も壁に書いて壁に貼り、薬やお金のチェック表をつくっている。長年の施設入所経験のあるピアカウンセラーが一緒に考えながら工夫し、困った時の連絡対応を行っている。 ・地域の自立生活センターやヘルパーコーディネーター、生活介護、金銭管理のサービス、余暇活動を充実させる取り組みなど、いくつもの連携した支援があれば、かなりの支援が必要な障害者も、一人暮らしに移行が可能である。 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- 文中「指示版」の実物画像3枚あり。 ---追加ここまで--- 生活に欠かせないことばかり。こんなことに注意しています。自分で判断したり一緒に決めたりしたいので、声をかけてくださいね! p.26 実現のために C個別支援と人材育成 支援の質を高める「24時間体制の介護、医療的ケアの提供機能」+ソーシャルワーク 「障害者支援施設が求められている機能」の項で述べたとおり、障害者支援施設が、「障害特性に合った介護と医療的ケア」を提供できる強みは、受け継がれるべき機能であることに、変わりはない。 ただし、介護保険制度に基づく生活施設もあるなかで、障害者支援施設がより強調すべきは、一人ひとりのニーズに応えるための相談支援機能、地域生活と社会生活を支える機能であると受けとめてほしい。 障害者支援施設のセールスポイントは、24時間体制の介護と医療的ケアが提供できることだけではない。 常に中心に本人を置いた相談支援体制があること、そこには権利擁護の視点があり、気持ちを引き出せ思いを汲める職員がいること、障害特性に応じた地域生活・社会生活の支援ができること。これが明確な違いであると、すべての障害者支援施設が言えるように、施設ケアを転換していきたい。 実践例6 ソーシャルワークに裏づけられた総合力 地域の人材育成にも取り組む 障害者支援のサービスのみならず、さまざまな福祉サービスにおいて、個別支援計画の策定が行われている。その中で、障害者支援においては、ケアのみならず、医療・リハビリ・栄養・ソーシャルワーク等の専門職が密接に連携し、その計画づくりと実践にあたっていることは特徴的なことと言える。 個別支援計画は、サービス管理責任者が責任を持って策定管理するものであるが、いわゆる生活支援員はじめ各部署(医療・リハ・栄養・相談支援・事務等)が、それぞれに策定された計画を持ち寄り、連携し一体的に関わり、策定されることで、より本質的、より現実的、より実践的、より重層的、より多角的な計画になり、入居者の自己実現、あるいは在宅移行(地域移行)につながると言える。 A施設においては、各セクション(ケア=介護、メディカル=医師・看護師、アクティヴィティ=リハビリ&日中活動支援、栄養)において、自立生活プログラム(ILP/ケア)、看護計画(メディカル)、リハビリ実施計画(アクティヴィティ)、栄養マネジメント計画(栄養マネジメント)が策定され、さらに相談支援員が加わり、各専門家とご本人またはご家族を含めたサポート委員会にて最終的に自己実現のためのILPとして策定され、実施に移されている。 その中で、医療的ケアが必要な方がたには、計画の実現に向けてさまざまな体制がとられている。医療的には、医師は3名主治医体制(常勤医の配置。嘱託医及び非常勤医の2名による定期的診察。そして外部かかりつけ医への定期受診)をめざし、概ね7割の入居者で達成している。さらに、看護師は8名で24時間体制(夜勤1名・日勤2〜4名)が取られている。また、ショートスティ1部屋は医療的ケアが必要な人を最優先で受け入れており、医療的ケアのない方は利用できない場合は多い。 p.27 計画策定には、ご本人の希望やニーズを生活支援員(ケアサイド)およびサービス管理責任者や相談支援員がアセスメントし、各セクションに提示する。 そして、医療からは最低限必要な生命管理上の問題とその対応策が提示され、看護および栄養サイドからはそのための体調管理における諸注意と課題、その対応案が提示される。それらは、全て個々の部署でご本人と協議検討された上で提示される。そして、必要に応じたリハビリ体制も提示され、最終的に担当する生活支援員と相談支援担当者(サービス管理責任者等)が整理統合し、ご本人・家族と協議、さらに必要に応じて各部署と再協議しながら、個別支援計画へと仕上げ、実行に移される。 10年以上外出をしたことがなかったALSの人工呼吸器利用者がショート利用を契機に策定された個別支援計画により、ご本人もご家族も安心して外に出ることができるようになった事例もある。 A施設では、難病で医療的ケアが必要な方や遷延性意識障害の方がたが全体の約3分の1に達しており、定員62名全室個室で、そのうち12室が中央配管により、酸素吸入と喀痰等吸引ができる設備があるが、それでも最近はポータブル吸引等が必要な状態になっている。ケアスタッフ(介護職)は5名の不特定多数の者対象の喀痰吸引等研修修了者と18名の特定の者対象の喀痰吸引等研修修了者を中心に看護師と連携しサポート体制を組んでいる。 全職員に医療的ケア実施ファイルが配布されており、医療的ケアに関する法人の基本方針と取り組みの経緯、医療的ケア全般のマニュアルと研修の履修記録(フォローアップ含む)が記載されており、定期的なフォローアップ研修が義務づけられている。 また、東日本大震災の教訓から、現在人工呼吸器装着者6名、喀痰吸引等が必要な方10名の電源確保を主たる目的にソーラー発電設備とそれによる蓄電池24台を整備している。蓄電池は在宅で人工呼吸器や吸引器を使用されている方々への支援も含めて体制整備されている。 さらに地域の人材養成のために、難病ホームヘルパー養成研修を年1回、特定の者対象の喀痰吸引等研修を2か月に1回実施している。 <医療的ケアがある安心> ハープの心地よい音色を楽しみます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 人工呼吸器を装着 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 難病ヘルパーの講習会 障害のことや思いを伝えます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- パソコンに脳波を伝えて意思表示します ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.28 実現のために Dコミュニティケア 「在宅ケア」の積極的展開、そしてコミュニティケアへ 身障協が訴えてきた在宅サービスの拡充には、前向きに取り組んでいただきたい。 障害者支援施設には、障害者が地域生活を送るためのニーズに応える機能があり、その機能を生かしたサービスを望んでいる障害者がいることを、それぞれの地域で確認してほしい。 在宅ケアを展開することは、機能のアウトリーチだと理解すれば、取り組みやすいのではないか。専門性の発揮の場は、施設内だけではない。 地域単位で障害者を支える(コミュニティケアを推進する)ことは、パートナーシップであると考えると理解しやすい。障害者支援施設、他のサービス事業者、住民、行政等、それぞれの社会資源が、おのおのにできる役割を果しながら連携することで成立するものと考えてほしい。 実践例7 まちの中心に支援センターを立ち上げ 「地域福祉支援センター」を市の中心街に立ち上げ、在宅ケアの拠点として運営。このセンターでは在宅の障害者や高齢者のホームヘルプ事業、訪問介護・看護事業、移動支援事業、相談支援事業など、在宅支援を中心に各種のサービスを提供している。 法人の独自事業では、地域交流サロンで定期的に『ふれあいセミナー』を開催し、地域の交流の場として、地域福祉推進のための福祉理解の場として、施設を開放している。このセミナーは、地域の女性会による「おはぎ作り」「そば打ち」や「各種コンサート」「福祉講演会」など、多様なメニューで地域の交流の場となっている。 その他、「手話講座」や「よろず相談」「かけこみ寺」「自殺予防」のための「心の笑顔相談」など、心のふれあいと笑顔を大切に、ソーシャルコミュニティワークの実践に取り組んでいる。 <まちぐるみ“コミュニティケア”の芽がでるところ> 手話を覚えながら障害についても学びます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 地域の有志がフラダンスで伝える愛 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.29 実践例8 インフォーマルサポーターとフォーマルサポーター ケアホーム利用者Cさんは、夜間に時おり外食し飲酒して帰宅する。 ある時スナックの経営者から電話があった。「Cさんがだいぶ飲んでいますので、これからタクシーで帰ります」。 ケアホームの職員は玄関の外まで迎えに出てタクシーから部屋に入るまでを見守った。 Cさんは障害を負う前からそのスナックに通っていた。また、そのスナックにはケアホームの管理者も通っていた。Cさんとスナックの経営者とは、長年の客と経営者という繋がりで、Cさんと職員はお互いがその店の客という繋がりで、自然発生的に行われた行為である。 実践例9 継承されていく地域とのつながり @地域の空手道場が毎年(平成26年で29年目)、道場の子どもたちを中心に、施設で演武を披露し、餅つきを行っている。 今では、この道場で育った子どもが空手の指導者となり、子どもたちを連れて餅つきに来てくれている。また、施設に就職した子どももいる。 A生け花クラブを立ち上げたとき、市社協に講師紹介を依頼し、月2回ボランティアとして講師に来ていただいてから30年。 利用者との繋がりは深まり、生け花だけでなく、お茶会や作品展を開いたり、クリスマスや正月の花を飾ったりと、交流が広がった。今ではその方の娘が講師を引き継いでくださっている。 次世代へ受け継がれていきます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 生け花から広がる交流 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.30 4社会福祉法人として 障害者支援施設がもつ機能を、在宅生活を送る障害者にも提供できるよう、事業展開に拡がりをもたせることは、社会福祉法人としての役割である。 障害者支援施設としてコミュニティケア(地域資源の連携ネットワーク型ケア)の確立をめざすことに加え、社会福祉法人としては、障害者(児)支援とともに、地域全体の生活に寄与することで地域貢献に取り組み、共生社会の実現をめざしたい。 日常生活/緊急時の拠点として 実践例10 群馬県渋川市 @複数法人、他分野施設と連携協働〜基幹相談支援センターへの展開と地域づくり 平成18年、群馬県渋川市が6市町村の合併と障害者自立支援法の施行に伴い、広域12万圏域の障害者施設(3障害)37施設(現在は41施設)が連携して、渋川広域障害保健福祉事業者協議会を設立した。 立ち上げには渋川市福祉部長も関わり、行政と事業者との連携を図ったことで、この圏域のすべての障害者施設・事業所が参画することとなった。また、平成18年10月に相談支援事業が制度化されると、その事業を同協議会で行うこととなったためNPO法人格を取得。渋川広域3市町村より事業の委託を受け、市庁舎内で「渋川広域障害福祉なんでも相談室」をスタートした。 最初は4事業所から3名の職員を出向させて事業を開始。現在、相談件数は1か月700件となり、それに合わせて4事業所から8名の職員が出向し相談業務等を担っている。平成24年度には、3市町村からの信頼を得たことで基幹型相談支援センターとしての機能をもち、支援の充実を図っているところである。 さらに、計画相談件数が今後増えることを契機に協議会内で話し合い、大規模事業所に、特定相談支援事業所を5か所開設してもらうこととした。 現在、基幹型相談支援センターを中心に8か所の相談支援事業所が連携して、渋川広域圏の障害者福祉サービス等を支えている。 相談室と事業所の連携が圏域を支える ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに、相談室の写真と、広域障害福祉相談事業イメージ図があります。 ---追加ここまで--- p.31 A虐待から守れ! 障害者虐待防止法施行に伴い、「渋川広域障害福祉なんでも相談室」が信頼を得たことで、渋川広域3市町村より障害者虐待防止センターの委託を得た。 センター業務の緊急避難先は、渋川広域障害保健福祉事業者協議会の3事業所(身体・知的・精神)が受け持ち、市町村も積極的に関与。3事業所に対して、1か月3万円の予算が確保されている。また、障害者虐待防止法が施行後3件の対応要請があった。 B緊急時は助け合う防災協定 渋川広域圏では、手をつなぐ育成会や聴覚障害者の団体等27団体で協議会が結成されている。同協議会と渋川広域障害保健福祉事業者協議会、渋川市とで、防災協定を結び、災害時、地域の障害者の避難先として、障害特性に合わせた避難場所を確保した。また、事業者間においても、1施設で災害や緊急で避難を伴う場合、助け合うことを防災協定の中で申し合わせた。 実践例11 埼玉県内の例 @生活に不可欠な拠点になる ・正門前にコミュニティバスの停留所 公営の循環バスの停留所が施設と近隣の地域になく、市に依頼し施設正門前に設置。地域の方や施設利用者、家族が活用できるようになった。通院や買い物等外出の機会や家族の面会にも役立っている。 ・正門脇に郵便ポストの設置 近隣に郵便ポストがなく、日本郵便に設置をはたらきかけていた。なかなか応じてもらえなかったが、何度も依頼を繰り返し、年月かけようやく設置してもらった。近隣の方も、施設の利用者や職員も投函している。 ・ゴミ収集所に敷地を提供 土地所有者の都合でゴミ収集所がなくなることになり、近隣の住民が困っていた。敷地内の一角を収集所に提供しようと申し出たところ、大変喜ばれ、収集所をおくことになった。とくに朝は近隣住民と会う機会が増え、挨拶や会話が多くなった。 このほか、「地域防災倉庫を設置」などに取り組んだ例があります。 敷地内に収集車が入ってきます ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 正門脇ポスト 近隣の方も利用します ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.32 A呼びかける、知らせる、分かち合う ・住民とともに炊き出し訓練 震災が発生して、食料物資が届けられる事態になった場合を想定して、近隣にも声をかけ、住民と一緒に炊き出し訓練を行った。皆で作り一緒に食べると、お互いに大いに心強い。 ・「活用しませんか、貸し出します」回覧でお知らせ 施設で利用しているものを地域の方がたに利用してもらえないかと検討し、飲料水販売機100円、福祉車両・テント・車いすの貸し出しを回覧でお知らせした。飲料水の販売機は、近所の小学生がよく自転車で購入しに来るし、福祉車両や車いすは通院や受診のために利用される。小学校や子供会では、運動会やイベントでテント8張が活用されるようになった。 その他貸出例:地域交流ホームを開放し保育園行事に/施設備品を/自治会・子供会等に会議室を貸し出し ・声かけが交流を生む 施設で行うイベントは、回覧版で地域に案内し住民も一緒に鑑賞する機会をつくる。地域で活動するグループには施設訪問をお願いする。来てもらうことと招くこと、呼びかけることで交流が生まれている。 人材(財)育成の拠点として(職業的従事者/地域支援者) 実践例12 群馬県渋川市 人“財”を育てる ・渋川広域障害保健福祉事業者協議会の設立に大きく関与し、平成18年10月から実施してきた「渋川広域障害福祉なんでも相談室」に、S施設は現在も2名(一時期3名)の職員を出向させている。他の施設も同様に職員を出向させており、地域で生活する障害者の現状や課題、情報等を知ることにより、出向した職員のスキルが上がり、人材育成となっている。 ・広域障害保健福祉事業者協議会の設立によって、他の事業所との連携が進み、地域活動支援センターを運営していたNPO法人が新規に就労支援事業所(B型)を立ち上げた時、当施設の職員1名を出向させた。 他職種の事業を経験したことで、地域で生活する障害者の現状を知り、送迎を含む通所事業のノウハウを学ぶこともできて、職員のスキルやモチベーションも上がり、人材育成につながった。 ・手をつなぐ育成会の親が立ち上げたケアホームに職員が出向し、立ち上げ支援とサービス管理責任者業務を担った。事業の立ち上げやサービス管理のノウハウ等、多方面に渡りスキルを上げることができ、職員はモチベーションがさらに上がった。 現在、2棟目のケアホーム建築中であり、指定申請から入居する利用者の選定を、相談支援事業者と連携しながら遂行している。 p.33 ・地域の介護力アップに貢献 研修機関の登録を受け、喀痰吸引や経管栄養等の医療的ケアに従事できる介護職員やヘルパーの増員に尽力する。出張講座などを行い、介護、福祉への関心を高める。 使命として(地域貢献、国際貢献) 実践例13(地域貢献) 「もっているもの」は還元 ・「渋川広域障害福祉なんでも相談室」と相談室への出向は、我われ福祉施設が培ったノウハウで地域に貢献する事業である。地域で暮らすすべての障害者が安心して暮らせるまちづくりの一助である。もちろん人材育成の側面もある。出向料は1日13,000円、年間1人320万円程度のところ、出向職員の年俸は平均350万円以上というのが現状だが、社会福祉法人に何ができるかが問われた時、培ったノウハウをお世話になった地域に還元し貢献することではないかと考えて実践している。事業者にとっては、地域の障害福祉のニーズを把握することから、利用者の掘り起こし、事業拡大につながる情報等が得られるメリットもある。 ・他事業所立ち上げに培ったノウハウを提供し、地域資源の創出に貢献。 ・渋川広域障害福祉なんでも相談室を行ったことで、地域に必要なニーズを把握でき、複数の事業を立ち上げ、地域の障害福祉資源を創出。 ・隣接の市民会館の駐車場が狭いため、時おり臨時の駐車場として、施設の敷地を無償貸与する。そのため時々コンサートなどに、利用者招待がある。 実践例14(国際貢献、交流) みんなが“できること”と“嬉しい”を実感する〜ニーズを聴きとり、職員手づくりでセミオーダーメイドの車いすをベトナムへ〜 1999年から法人施設を中心に、地域住民、大学生などに呼びかけてベトナムへ車いすを届ける「空飛ぶ車いす事業(ツアー)」を実施。15年間で、直接現地の障害者の方々へ、152台を届けてきた。参加者は300名を超えている。 地域の人々とのボランティア活動で、ベトナムホーチミン市の貧困地区を訪問した際、障害のある人々が多数おられ(枯葉剤の影響を含む)、車いすを持たず、地面をはって動いておられる状況を目のあたりにした。 そこで、定期的にベトナムの子どもたちへの支援活動を行うベトナム育英会とタイアップして、現地福祉事務所や通訳コーディネーターの協力の下、車いすを届ける活動を続けている。(ホーチミン・ハノイ等) p.34 空飛ぶ車いす事業の特徴と効果(みんなが参加でき、役割を担う) 1.施設や在宅から不要となった車いすを集める(常時受付)。車いすは丸洗いし、生かせる部品を保管。 2.ホーチミン市8区福祉事務所等からの車いすを希望する人のリストに沿って、現地コーディネーターが身体状況などを聴きとり、個人に合わせて施設職員が車いすを改造する。(リサイクルでセミオーダーメイド) 3.ツアーメンバーを募集し、年に1〜2回ツアーを実施(機内預け重量制限20kg以内を利用し、車いすを運ぶ) 4.施設や貧困地区内家庭に車いすを届け、本人・家族に操作を教える。 5.現地でエイズの子どもたちや障害者・関係者らと交流を行う。 6.ツアーメンバーに、不登校の子どもたちや悩みのある人々を迎え入れ、ツアー後、学校へ行き始めるなどの効果を上げた。 7.現地では、障害のある人々を支援することへの意識の高まりが生まれてきた。 8.これまで、法人施設職員のべ49名と利用者2名がツアーに研修参加し、現地の人々の喜びにふれ、日々の仕事と技術が国際貢献につながることを実感している。 車いすを喜ぶ青年2003年 これまでは板にキャスターを付けた台にうつ伏せ、地面を押して移動していた ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 梱包して機内へ ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- 8区に通所施設ができ始める 2014年 利用者が多く、午前・午後の2部制 ---ここから、テキスト版とワード版に追加--- ここに写真があります。 ---追加ここまで--- p.35 5おわりに 「障害」「難病」の概念、捉え方が変わり、「障害」や「難病」の人々を取り巻く環境・制度は大きく変わりつつある。これまでの考え方・価値観・意識から脱却し、新たな時代に向かってわたしたちは歩みだす必要がある。 しかし、時代や社会が変化しても変わらぬ理念がわたしたちにはある。 では、わたしたちはどうすべきか。そこから本委員会は始まった。 そして、辿りついたのがコミュニティケアだった。 コミュニティは常に変化し、地域によってもその姿を変える。 ケアは相互作用による成長を意味する言葉であり、その理念をわたしたちは共有する。 わたしたちは、その中に施設として、コミュニティケアの核として、果たすべき役割があることに気づいている。そして、既に実践している施設も少なくない。 本報告書に示された、先駆的意欲的事例が、5年後いや3年後に、スタンダードになっているかも知れない。 ゆえに、いずれ本報告書は検証され、更に発展した次世代のコミュニティケアの姿を映し出すことを願っている。 宇宙は有限でありながら常に変化し、相互に影響しあいながら、果てしなく広がり発展する、連続した空間である。 それは、入居者・利用者を中心にコミュニティケアの核としての施設が、ネットワークを構築する時、コミュニティに存在するさまざまな資源をもインクルージョンしていくことと重なり、コミュニティケアの発展とネットワークをイメージさせる。 スペースモデルは、そんなわたしたちの未来を示すにふさわしいモデル(例示)として描かれている。 その実現をめざして、本報告書の末尾とする。 参考資料 ・「『療護・明日への指針』在宅サービス推進アクションプラン」(平成16年3月/身障協) ・「障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」(平成17年3月/全国社会福祉協議会) ・「重度障害者の地域生活移行プログラムに関する検討」最終報告書(平成17年3月/身障協 重度障害者の地域移行プログラム検討委員会) ・「全国身体障害者施設協議会 倫理綱領」(平成15年3月、平成26年3月一部改定/身障協) ・「障害者の地域生活支援のあり方に関する検討会報告書〜実践事例から見た地域生活支援の現状と課題〜」(平成22年3月/全国社会福祉協議会) ・「全社協福祉ビジョン2011」(平成22年12月/全国社会福祉協議会) ・「障害者権利条約と身障協に求められる対応」(平成23年3月/身障協) ・「身障協ビジョン2011」(平成23年7月/身障協) ・「新たな福祉課題・生活課題、社会福祉法人の役割に関する検討会報告書」(平成24年10月/全国社会福祉協議会政策委員会) ・「障害者基本計画」(平成25年9月) ・「障害者の権利に関する条約」(平成26年2月公定訳) p.36 「地域における施設の機能・役割に関する特別委員会」開催経過 第1回 平成23年9月27日 第2回 平成24年1月12日 第3回 平成24年3月26日 第4回 平成24年7月27日 第5回 平成24年9月6日 第6回 平成24年11月27日 第7回 平成25年1月15日 第8回 平成25年2月25日 第9回 平成25年4月5日 第10回 平成25年10月25日 第11回 平成25年12月12日 第12回 平成26年1月23日 「地域における施設の機能・役割に関する特別委員会」委員名簿 平成26年3月現在(敬称略) 委員長 眞下宗司 全国身体障害者施設協議会副会長(地域生活支援推進委員会担当) 群馬県・誠光荘 施設長 副委員長 小澤温 筑波大学大学院教授 委員 尾上浩二 認定特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長 委員 白江浩 全国身体障害者施設協議会副会長(制度・予算対策委員会担当) 宮城県・太白ありのまま舎施設長 委員 三浦貴子 全国身体障害者施設協議会制度・予算対策委員会委員長 熊本県・愛隣館施設長 委員 中田義則 全国身体障害者施設協議会地域生活支援推進委員会委員長 兵庫県・博由園施設長 委員 中川学 全国身体障害者施設協議会制度・予算対策委員会前・副委員長 北海道・北湯沢リハビリセンター統括施設長 委員 川田功二 全国身体障害者施設協議会研修・全国大会委員会委員長 地域生活支援推進委員会前・副委員長 埼玉県・はくちょう園施設長 奥付:裏表紙の内側 「わたしたちが創るコミュニティケア スペースモデルの実現をめざして」 地域における施設の機能・役割に関する特別委員会 報告 平成26年3月 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国身体障害者施設協議会 〒100-8980 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル 全国社会福祉協議会 高年・障害福祉部内 TEL 03-3581-6502 FAX 03-3581-2428